イギリスのせんごう塩

かつてイギリスは世界一の塩の生産量を誇ったことがあります。19世紀末から20世紀初頭にかけての話です。イギリスには塩の原料となるものが2つありました。海水と岩塩、それに岩塩由来の塩水です。

岩塩がある場所には岩塩成分が溶け出した塩水があり、これを釜で煮て塩を得る中小の製塩業者がひしめいていたのです。イギリスには「〇〇ウィッチ」と言う地名がよくありますが、ウィッチにはもともと「製塩所」という意味がありました。例えばチェシャー州にある「ノースウィッチ」は「北の製塩所」です。

イギリスでは岩塩をそのまま採掘することもありましたが、多くは岩塩由来の塩水・地下水をくみ上げて、これを「せんごう」していました。「煎熬(せんごう)」というあまり見慣れない漢字で書きますが、「せんごう」とは、濃い塩水(かんすい)を煮詰めて塩を製造することです。

このようにして作られた塩を「せんごう塩」といいますが、昔ながらの平釜で炊いたお塩も、精製塩も同じく「せんごう塩」になります。つまり、現在生産されているお塩のほとんど、採掘岩塩と天日塩以外のお塩はすべて「せんごう塩」という訳です。

19世紀後半のイギリスでは、製塩所から排出される煙による大気汚染と、地下塩水をくみ上げすぎてしまったために起こる地盤沈下が問題になっていました。

家族経営で製塩を行う中小企業の労働環境も劣悪だったようです。

その製塩状況を変えたのが、「真空式の加熱器」でした。気圧をさげて塩の沸点を下げることで、燃料費量を大幅にコストダウンできるとともに、均一な結晶をとりだすことができる画期的な装置だったのです。現在の製塩業の主要部分をしめる「せんごう塩」近代化の発端となり、中小の製塩業者はソルト・ユニオンに束ねられていきました。

 

製塩業の近代化は、労働環境や環境汚染を改善したプラスの側面もあったのです。

イギリス製塩の中心地だったチェシャー州は100年前、石炭がはきだす黒煙によって煤に汚れ、土壌は汚染され、地盤沈下の訴訟が絶えなかった場所ですが、今は緑豊かな田園地帯になっており、The Salt Museum という塩の博物館があるそうです。

サイトURL:http://www.saltmuseum.org.uk/

【The Salt Museum より借用】

イギリスに行ったことがありませんが、いつか行ってみたいものです。

 

参考文献「塩の世界史」中公文庫