海水浴と塩湯治

海水浴と塩湯治

 

今年の夏は暑すぎて海水浴場への人出が減ったという新聞記事を読みました。

海水浴は夏休みレジャーの定番でしたが、年々海水浴の人気が落ちているともその記事は書かれていました。

日本で海水浴が盛んになったのは大正以降で、それ以前は海で泳ぐという事自体が忌避されていたそうです。

日本の物理学者である寺田寅彦が『海水浴』という随筆を昭和18年の文芸春秋に残しており、そこには明治14年の夏、父親に連れられて愛知県の海辺で過ごした彼の記憶が書き留められています。

明治時代は、海水浴という言葉は一般的ではなく、丸裸で海に浸かり身体を鍛える民間療法として「塩湯治」と呼ばれていました。

病弱だった息子(寅彦)を心配した両親がこの「塩湯治」を施すため、鄙びた海岸でひと夏を過ごさせた時の随筆です。

 

 寅彦の随筆には、

「海岸に石垣のようなものがどこまでも一直線に連なっていて、その前に黄色く濁った海が拡がっている。数え切れないほど大勢の男がみんな丸裸で海水の中に立ち並んでいる。去来する浪に人の胸や腹が浸ったり現われたりしている。自分も丸裸でやはり丸裸の父に抱かれしがみついて大勢の人の中に交じっている。」

あまり楽しくなさそうな苦行にも感じられる情景ですが・・

このひと夏の『塩湯治』により、目立って身体が丈夫になった寅彦はその後も海水浴に親しんだそうです。

海水浴がレジャーとして定着したのは昭和に入ってからで、それ以前は健康増進法として行われていたという貴重な記録です。

海水浴に行くと、皮膚炎やアトピーが良くなったという話を聞きますが、これは海の塩がなんらかの働きをしているのだと思います。

フランスでもマリンテラピーという海水療法があり、海に行くことは人間の健康増進に有益であることは世界共通のようです。

ただ、今年のような暑さが続けば、夏の海水浴は体に悪いとなりかねず心配です。

少年時代の夏は暑くても32度程度、海からあがると冷えた体に砂浜の熱と海風が心地よかった海水浴の光景が、なくなってしまわないことを願うばかりです。

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