塩の世界史とカリウム・ナトリウムポンプ、適塩のすすめ

2016年7月2日

塩の世界史

マーク・カーランスキー著『塩の世界史』には、塩に対する人々の見解が二つの陣営に分かれていると記されています。

古代から、塩が体に良いと考える人間と、体に悪いと考える人間のあいだで論争が続いてきました。両者とも一理あるのかもしれません。

体が塩を必要とすることには議論の余地はありませんが、高血圧や心臓血管の異常と大量の塩分摂取の相関関係を示唆する研究もあります。紀元1〜2世紀に編纂された中国の医学書『皇帝内経』でも、塩が高血圧や心臓発作を引き起こす可能性があると忠告されています。

一方で、塩の欠乏は低血圧の原因とされ、減塩食が不健康であると指摘する研究者もいます。健康な腎臓を持つ人なら、過剰な塩分を摂取しても害はないという見解もあります。

人体は発汗や利尿によって過剰な塩分を排出するようにできており、問題はナトリウムとカリウムのバランスにあります。

カーランスキー氏は、世界中の塩の歴史や製法を調査した塩のオーソリティー。著書の中では、塩に熱中する派が陥りやすい失敗についても皮肉を込めて描いています。

例えば、昔は見向きもされなかった不衛生で不純物の多い塩が、現代のグルメ市場で高値で取引される現象などです。

著作の最後には、「地球上で最も入手しやすい物質『塩』の真価を定めるのが容易であったことは、いまだかつて一度もないのである。」という言葉が記されており、塩のトレンドは経済状態やライフスタイル、国民の健康度によって変化してきたことがわかります。

カーランスキー氏が指摘した「ナトリウムとカリウムのバランス」は、私たちの体内で細胞が人知れず働いてくれている「カリウム・ナトリウムポンプ」という機能に関係しています。

細胞外のナトリウム濃度は高く、ナトリウムは細胞内に入り込もうとします。これを放置すると電位差がなくなり、心臓や神経が正常に働かなくなってしまいます。

そこで細胞は、入ってきたナトリウムを外にくみ出す作業を行います。この濃度差に逆らってミネラルを輸送するためにATPエネルギーが使われ、これを「能動輸送」と呼びます。

このポンプをスムーズに、過度に忙しくもなく、かといって休ませることなく稼働させることが重要です。

過剰な大量摂取も、極端な減塩も、ポンプの働きにストレスを与えます。

あくまでも中庸に──「適塩」を心がけることが、細胞を活性化させ、健康への近道となるのです。

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