塩の析出とは
「析出(せきしゅつ)」とは、固体以外にある物質が固体となって現れてくることです。
お塩であれば塩水からお塩の結晶が出現してくること。
海水には様々なミネラルが含まれており、塩分濃度が濃くなるにつれて決まった順番で中にあるミネラルが固体化(析出)されます。
例えば海水を天日に干した様子を想像してみてください。
海水が蒸発して、まず現れるのは一番水に溶けにくいカルシウム分です。塩分濃度20%くらいまではこの状態が続き、他のミネラルはまだ海水の中に液体として存在しています。この時最初にあらわれるカルシウムの味は淡いエグミがするものです。
濃縮がすすみ、25%のところになるといよいよ主役登場!ナトリウムが姿を現し、続いて27%になるとナトリウムと同時にカリウム、とマグネシウムが析出されるようになります。
この状態をキープすると苦味のもとであるマグネシウムがだんだん強くなり、マグネシウムを含みすぎると食用には適さなくなるため、だいたい濃度30%くらいのところで析出された「塩」を切ります。
そして、残されたものが「苦汁(にがり)」というわけです。にがりはマグネシウムを多く含んでいるため、文字のごとく大変苦い液体です。
この切り上げ加減が塩生産者の腕の見せ所です。
ミネラルにはそれぞれ特徴となる味があり、マグネシウムが苦味なら、ナトリウムがしょっぱ味であり、カルシウムが軽いエグミ、カリウムが酸味になります。
このバランスをどうとるかに気を配り、塩づくりが行われています。
太陽熱と風の力だけで海水が自然に塩の結晶になったものを「天日塩」と言いますが、まったく人が手をつけずにできた天日塩というのは、できたてはこのマグネシウム含有量が多いために苦く、食用には適しません。
では、どうするかというと出来上がったお塩をさらに天日にさらして、マグネシウムを抜かなければなりません。
塩の苦汁抜き
江戸時代ごろのお塩はこのマグネシウムがたっぷりと入ったものだったので、塩俵は湿っていたそうです。
こういったお塩は安く、庶民が使うものでしたが、このままでは味がよくないので、買ってきたお塩はザルやサラシに入れて、宙に浮かせて、苦汁分(マグネシウム)を抜いてから使いました。
【出展 塩の道 宮本常一 講談社学術文庫】
対して江戸時代のセレブたちが口にしたのは、「2年塩、3年塩」とよばれる、今で言うなら「熟成させたお塩」でした。
苦汁分を抜く作業を製塩業では「枯らす」と表現しますが、十分に「枯らした」お塩ほど苦味がよくぬけているというわけです。
じゃあ、そんな苦味(マグネシウム)なんか全部とっちまいなよ!という声が聞こえてきそうですが、ほんのり苦味があるとこれが逆に甘味をもたらたすという効果があるため、僅かなマグネシウムは含まれていたほうが良いのです。
不純物を取り除いて、綺麗な形に研ぎすますということは「良い」事のように思われますが、遊びがなくて、かえって残念だったというケースはまま人生においてもあります。
お塩についてもそれは言えて、ナトリウム100%の精製塩はしょっぱいだけで美味しくないのです。
単一物質では本当に味わいのあるものはできない、苦味も酸味もエグミもあってはじめて豊かな味わいが生まれます。
人生もお塩も、ほどよく遊びとゆとりがあったほうが良さそうです。