塩の道と動物
世界各地には、塩を運ぶ道があります。アフリカ、ニジェールにはラクダに塩の塊をのせていくキャラバンがまだ存在しています。
かつて、日本でも海岸でとれた塩を山地へと運ぶ塩の道がありました。その名残をとどめる地名が各地に残されていますが・・
瀬戸内海の塩を信州にまで運んだルートには、長野の塩尻(塩の終着点)や、愛知の足助(塩運搬のハブ)などがあり、これらは塩の道のターミナルとなっていた場所です。
塩を運ぶのに使われたのは馬よりも牛でした。
まず、牛のほうが重たい荷物を運ぶのに適していたということもありますが、牛は道端の草を餌にしてくれるため、餌代の心配をしなくて良く、コスパに優れていました。
目的地まで着けば売りさばいて帰りの路銀に変えることができたのです。
山中、塩を運ぶのには危険も伴いました。オオカミや熊などの獣の心配があったからです。
夜は獣の襲撃を避けるため、牛たちを、円陣を組むように寝かせてその真ん中に火をおこしました。
運搬人たちはその円の中で、牛にもたれて寝るという塩梅です。牛の体温と火があれば結構快適だったかもしれません。
山に入る猟師に御法度とされたのが道端での立ち小便でした。
小便に含まれる塩を嗅ぎ付けてオオカミや獣たちがこれを舐めにくるため、猟師達は小便を竹筒にいれて持ち帰ったり、普段は通らない山中に捨てたそうです。
山中に棲息する獣にとっても塩は欠かせない大好物で、カモシカなどは土中に含まれるミネラル成分をとるために、急斜面の山肌を一心不乱に舐めるのです。
動物にとっても大切な塩
玄関に塩を盛る「盛り塩」も由来は牛にあるとも言われています。
それは中国の故事によるもので、中国の大奥にあたる場所で、皇帝の乗る牛車の牛が塩をなめるために立ち止まり、その塩を玄関先に置いた女性が皇帝の寵愛を受けることになったという話です。
【塩をなめる牛 出典 https://www.youtube.com/watch?v=hKCTwzpVqaY】
中央アジア近辺の遊牧民にとっても、塩を羊に与える事は羊を管理する上で大変重要でした。
特にカリウムを含む植物を食む草食動物にとって塩・ナトリウムは必要不可欠なのです。
遊牧民達も岩塩を羊に与えましたが、これをしないと羊の解体が難しくなり、毛並も悪くなることを彼らはよく知っていたのです。
塩を与えない羊は毛並みが悪く、解体する時に肩甲骨がすぐに砕けてしまうため、十分な肉を得ることもできませんでした。
これを人間に置き換えれば、塩をとらないことがどういった事を招くか想像することができると思います。
ちなみに肉食動物たちは、肉にふくまれるナトリウムを新鮮な形で摂取しているのであまり塩を必要とはしません。
つまり草食動物の血液をすすることでそこからナトリウムをとりいれているのです。血の味は塩っぱい。その塩が肉食獣の食欲をそそるのです。
血をもとめるドラキュラ伝説発祥の地であるルーマニアでも塩は貴重品でした。
食欲や性欲にナトリウムはかなり大きなウェイトをしめており、ナトリウムは精力剤ともいえるものです。
現代人はナトリウムを多く含んだ肉と脂の多食に、更に精製塩を加えて食事をすることが多くなりました。
こうなると、体内のバランスはナトリウム過多となって高血圧の原因になります。
肉は野菜と一緒に食べなさい。というのは、実はナトリウムとカリウムのバランスをとりなさいという話でもあるのです。
動物と塩には密接な関係があり、人間もその輪の中で生きていることを忘れてはならないようです。