カスピ海の塩漬けキャビア
― 古代テチス海が結ぶ、塩と食文化の物語
世界三大珍味のひとつ、キャビア。
その背景には、塩がつないできた壮大な海の記憶がありました。
「キャビア」と聞いて、思い浮かぶのは何ですか
黒く輝く粒。シャンパンの席。きらびやかな食卓。
キャビアは、いまや世界中で愛される高級食材です。
けれど、もともとキャビアは「塩漬けの魚卵」。
塩がなければ、この食文化は生まれませんでした。
このページでは、キャビアの歴史をたどりながら、塩という素材が地球とどう関わってきたのかを、やさしくひもときます。
キャビアの歴史 ― 「魚ジャム」と呼ばれていた時代
チョウザメは、約1億8千万年も前から地球に存在する古代魚です。サケと同じく、産卵のために川を遡る習性があり、普段は塩水中に、産卵時には真水を泳ぎます。
中世のヨーロッパでは、チョウザメは珍しい魚ではなく、産卵期にはヨーロッパ各地の川にあふれていたといわれています。
キャビアの値段が跳ね上がるのは、20世紀に入ってから。
第一次世界大戦中、イギリス兵には缶詰のキャビアが支給されていましたが、当時の兵士たちは「魚ジャム」と呼んで見下していたそうです。
古代魚チョウザメ。塩水と真水を行き来する稀有な魚。
カスピ海 ― 湖か、海か。塩が問いかける境界線
現在、流通するキャビアの多くは、カスピ海沿岸のロシア産またはイラン産です。
カスピ海には、ロシア・カザフスタン・トルクメニスタン・アゼルバイジャン・イランの5カ国が接しています。
面白いのは、イランが「カスピ海は湖ではなく海だ」と主張していること。
湖と海では領海の定義が異なり、海であればイランの領海が広がり、漁業権も拡大するのです。
湖とするには広すぎ、海とするには狭い。塩を含む不思議な水域。
カスピ海は世界最大の湖でありながら、塩分濃度約1%の「塩湖」です。
水が蒸発するとそこには塩ができ、その塩がキャビアの塩漬けに使われてきました。
つまりカスピ海は、塩漬けキャビアをつくるのに最適な土地だったのです。
古代テチス海 ― ヒマラヤとカスピ海をつなぐ塩の記憶
カスピ海の西には黒海と地中海、東にはヒマラヤ山脈がそびえます。
かつてここには、「テチス海」と呼ばれる古代の大海原が広がっていました。
そのテチス海が地殻変動によって、内陸に取り残されたのが カスピ海。
地下深くに沈み、長い時間をかけて結晶化したのが ヒマラヤ山脈の地下にある岩塩層 です。
ヒマラヤ山脈の地下に眠る岩塩層も、もとは同じ海だった。
ひとつの海から、ふたつの恵みへ
キャビアの塩漬けに使われたカスピ海の塩。
そして、現代の食卓を支えるヒマラヤ岩塩。
地図を眺めると、これらが同じひとつの海の痕跡であることが見えてきます。
「塩」という素材は、地球がゆっくりと時間をかけて残してくれた、海の記憶そのものなのです。
失われゆく天然キャビア、そして塩のこれから
近年、カスピ海では環境汚染によりチョウザメが減少し、天然キャビアはますます希少になっています。
これに代わって、養殖キャビアや人工キャビアが登場しているのは、際限のない消費需要によるものです。
同じことは、塩にも言えます。
大量生産・大量消費の時代に、自然のままに採られる塩は静かに減りつつあります。
- 食材は、その土地と水と気候の記憶を抱えている
- 一粒の塩には、数千万年の海の時間が宿っている
- 「どこで」「どう採られたか」を知ることが、選ぶ力になる
体に入れるものを、整えるという選択
源気商会は、塩と水で健康になることを大切にしています。
派手な健康効果をうたうのではなく、毎日くり返し体に入るものを、ていねいに選ぶこと。
キャビアの歴史をたどると、塩という素材がいかに私たちの食文化を支えてきたかが見えてきます。
塩は脇役ではなく、食卓の根っこにある存在。
だからこそ、「何で味をつけるか」を変えるだけで、毎日の食事は静かに変わっていきます。
よくあるご質問
Q. キャビアと塩の関係を知ると、何が変わるのですか?
食材の背景を知ると、選び方が変わります。「同じ塩」と思っていたものが、まったく違う土地と歴史を持っていることに気づくはずです。
Q. ヒマラヤ岩塩とカスピ海の塩は、別物ですか?
採れる場所も結晶のかたちも違いますが、たどれば同じ古代テチス海から生まれた兄弟のような塩です。それぞれ味の個性があります。
Q. 普段の料理で、塩を変える意味はありますか?
味つけのベースが変わるだけで、素材の感じ方が変わります。むずかしいことを考えず、まずは一品から試してみてください。